UTMF2019参戦記ー後半戦(二十曲り〜ゴール)

二十曲りを出てしばらくして、杓子山に取り付いたくらいだろうか。


杓子山は聞いていたとおり、丹沢山系のような「手を使って上る全身運動」系のトレイルで、「いやぁ、これを最終盤に持ってくるとは本当に鏑木さんアホだな」と思いながら、とはいえ楽しんで登っていた。


エンストは突然に。

本当に突然に。プスン、という感じ。

今までの余裕がどこに言ったのか、一気に登れなくなってしまった。ちょうど杓子山の核心部である。手に力が入らず、けっこう危ない状態で岩場を上る。


状態としては、前半戦「天子山地」に近い感じ。しかし明確にハンガーノックっぽい症状だ。持っている補給食は少なくなってきているが、脳の錯覚になればと一番甘い「ワスプ ハニーウォーカー」を一気食いする。クソ甘い。この甘さで脳よ、騙されてくれ。


さらに追い打ちをかけるように、下から後続の選手が追ってくる。なんかよくわからないけど、僕より元気そうじゃないか。おいおいちょっと待て、俺は30位まで順位を上げる男だぞ、俺の順位を下げるようなことをするな!


そんなことは思ってたか思ってなかったか覚えてないが、とにかくけっこう焦った。50位以内も危ないんじゃないか?すぐさまそうしたネガティブな思考がよぎったが、流石にここまで150km近く走ってきた自信がある。

抜かれはしたものの、しっかりとした足取りで前を追う。すると、別の落ちてきた選手を拾うことができ、結果的に順位を上げることができた。


UTMF2019後半戦は寒さとの戦い

杓子山は何個も「偽ピーク」がある。何度も騙される。さらに幻覚症状も相まって、全部ピークに見える。鉄塔に見えたものが、近づくとただの枝だったりする。1年分くらいガッカリしたんじゃないだろうか。

本物の、リアル杓子ピークに到着したときは、なんかムカついてしまい、「コノヤロー!」と金を鳴らした。たぶん、このアクションは僕だけじゃないはずだ。


山頂に着くと、一気に気温が低下していることに気づいた。早く下山したほうが良さそう。僕のこの予感はまさに「的中」だった。


下りの最中、ぐんぐん気温が下がる。雨も強くなってくる。150km以上走ってきた人間に対する仕打ちがこれか。どんだけ心を折ってくるんだ。割とリアルに萎えてくる。


林道に出る。ライバルmaimai(福島舞選手)が応援で逆走しており、発見してくれ、エールを送ってくれる。福島選手の元気は敵にすると脅威だが、味方のときは大いなる力になってくれる。その応援でなんとか元気をつなぎ、寒い中最終エイド「富士吉田」を目指す。


とにかくこの林道→街中の区間は寒さが「やばいレベル」に達しており、また装備的にも限界を感じていた。


判断力の勝負

持っていたウエアはすべて度重なる雨で水分を含んでしまっており、これ以上暖かくする事はできない。しかしゴールまでは11km。押し切れる距離だ。

僕の判断は、「富士吉田は補給だけ手早く行い、最小タイムで通過する」だった。止まったら死ぬ。うどんとか食べて温まる、という選択肢もあったが、ここはストロングスタイル。一気に行ってしまったほうがいい。

予想外にサポートメンバーが待ってくれていたのだが、最小限で富士吉田を後にする。おそらくあそこで居座ってしまっていたらゴール出来なかっただろう。


幸い、エイドを出てすぐ最後の山「霜山」への入山口があり、なんとかここで風を凌ぐ事ができた。前を行く日本人女子2位の高島選手も捉えることができ、ラストスパートをかける。


「最後の霜山がいやらしいんだよね」


だれかがそんなことを言っていたが、僕にとってはそんなことはなかった。ここまで来たら数百メートルくらいの登り、訳はない。雨風を少し紛らわせることができるだけでありがたい。

しかし山頂に近づくと、雨が雪に変わりやがった。それはダメだ。思わず笑ってしまった。つくづくUTMFは天気に恵まれないなwと、独り言を言いながら笑うやばいやつになっていた。

というか、雪がやばい。雨が雪になったねぇ、というレベルではないのだ。東京だと1年に一回あるかないかレベルのヤバいやつなのだ。

流石に足が言うことを効かなくなってきたが、ちょっと命の危険を感じたため、文字通り必死になって下山する。河口湖付近の街が眼下に見えてきたときは、「生きて帰ってきた感」が半端じゃなかった。


そして、無人のゴールへ。

UTMFのゴールの仕方だけは決めていた。河口湖大橋を走りながら、通り過ぎる車から「おかえりなさい!」「よく頑張ったね!」と声をかけられながら、「ただいまぁ!」と大声で走り抜ける。

昨年の覇者ディラン・ボウマンのように、「Oh,God」と顔を覆いながら、ゴールゲートに向かう。ゴールゲート前で待ってくれている人たち全員とハイタッチして、ゴールを味わい尽くしながら、「渡邊選手、ゴールでーす!」とあのアナウンスでゴールテープをガッチリ握り、腕を振り上げる。


そんなゴールを思い描いていた。


しかし、河口湖大橋を走っていると、そもそも車の通りが少ない。というか雪が降っているから、誰も窓を開けて応援してくれない。

大橋から見えるゴールゲートも・・・あれ?人少なくない?


ちょっと不安になるも、そこはUTMF。どれだけ富士山が見えなくたって(レース中一回も見えなかった)、きっとゴールはド派手なはず!感動のゴールシーン!

そんな僕の淡い期待は、粉々に打ち砕かれた笑 ちょうど大会の中止が決断、アナウンスされたタイミングで、会場にスタッフはほとんどおらず。また僕の数分前に女子総合5位の選手がゴールしており、アナウンスの人もそちらのインタビューで掛り切り。

そのため僕の名前は呼ばれることはなく、他の大会よりも寂しいゴールとなってしまいました。まぁこういうこともある!


さらに不幸なことに、サポートがゴール地点に到着しておらず、この寒空の下、ドロップバックも荷物もない状態で放置されてしまい、まさかのゴール後に低体温症に。GOREのショップの方が親切に匿ってくれたけど、レース中のどのタイミングよりもゴール後が本当に辛かった。次のUTMFでは「ゴール後のマネジメント」もきちんとしようと心に決めたのだった。


続く》》》UTMF2020に向けて。




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